2011-04-07

吹き矢

プナン族は、以前にも紹介しましたが、採取狩猟民族です。男達は、朝早くから狩猟に出かけます。方法は?「コラプット」と呼ばれる吹き矢を使います。
この矢の先に毒が塗られていて、命中したらどんな動物でも死にます。この吹き矢を吹く吹き筒を作るのには、とても大変です。素材になる木は、「マングリース」や「ベリアン」と呼ばれる硬い材質のものです。直径は少なくとも1m以上で実際に必要なのは、木の中心部です。素材は、木が大きければ大きいほど、硬ければ硬いほど良いとされています。これを2週間もかけて中央に穴を開け、周囲を削いでいき、握り口の方が太く先端に行くほど細くなるように仕上げます。そしてヤスリがけをしますが「ウディムダン」と呼ばれる樹木の葉でします。この葉の裏には硬くて小さいトゲが無数に付いていてちょうど紙ヤスリの代わりになります。この筒に反りがある場合には、立ち木に数日間くくりつけ慎重に反りを直していきます。
最後には、この吹き筒の先端に「パロー」と呼ばれる菱形の小刀を付けます。吹き筒は長ければ長いほど、正確で威力が増しますが、それだけ肺活量と支える腕力が要ります。だから、女性や子供は、全長1m未満を使います。
吹き矢の先に塗る毒は、「タジャム」と呼ばれていて、ツル性植物のイポーの樹液から作られます。このイポーの幹の部分を削って細かく砕いて出て来た白い液を煮詰めて黒いタール状になると出来上がりです。イポーの樹液は、アンチアリンと呼ばれる成分が含まれており、心臓の働きを麻痺させる効果があります。プナン族もこの毒に対する解毒方法を知らないので、もし誤って刺してしまったら、その部分を素早く切り落とすしかないのです。だから、どこのラミンでも子供のての届かない高い所に置いています。
矢は、狙う獲物によって使い分けがされています。鳥やイタチなどを狙う時は、「タハッ」と呼ばれる一本の真っ直ぐな矢です。大きなものは、「ブラッ」と呼ばれる矢で、刺さった後簡単に抜けないように先端に引掛り鍵が付けられています。矢の後ろには「プノ」と呼ばれる植物が吹き筒の太さに合せて風圧受けとして付けられています。この矢の先端部分に意図的5ミリおきに小刀で切り込みを入れています。なぜなら、矢が命中した動物が逃げる時、矢が折れやすくするためです。毒の塗られた矢の先が獲物の身体に確実に残すためです。
プナンの男達は、吹き矢を二、三十本、竹筒に入れて腰にぶら下げて狩に行きます。狩は大変な体力と集中力を要します。一番重要な事は、自分の姿を相手に悟られないように見つけて近づく事です。狩ができるか出来ないかの術です。プナン族は、獲物が出没している場所をよく知っています。この場所にさしかかると足音を立てずに辺りを窺がいながらゆっくり歩きます。狩の達人が「目で見ようと思うとだめです。風の音、木が揺れる音を聞くことが大事です。耳をすませば獲物の方から、私はここにいますよと教えてくれます。」と語りました。


663.吹き矢のプナン族

カリマンタン島の原住民はダヤク人と総称されるが、その中でも「プナン(Punan)族」は特異
な存在の狩猟採取民である。ダヤク人の支族ではなく別系統の民族という説もある。彼等の居
住地はインドネシアとマレーシアの東北寄りの国境の山中にある
農耕を一切行わない狩猟民である彼らはスンピットorコラプットという吹き矢による狩猟と採
集で生計を立てている。吹き矢は約2mの長い木の筒の端を口で吹くと筒の先からから10cm
の矢が飛び出す。30m離れた樹上の鳥を射落とすことができる。
吹き筒はウリン(→058)という硬い木の中心部分を使用する。中をくり貫くには鉄製の刃物を
台に置き、台の上でぐらつかないように固定したウリンの棒をゆっくり回転させながら少しずつ
削っていく。能率が良いとは思わないが、鉄以前の石器でやっていた当時の苦労は推して知る
べしである。ウリン製の吹き筒はかなり重いので支えるのに体力を要し、ジャングルを持ち歩く
不便である。
矢は小さいがイポーという蔦の樹液から採取した毒が塗ってある。アンチアリンという成分が
含まれており心臓の働きを麻痺させる効果がある。解毒手段がないので矢は子供などの手に
触れないように厳重に保管される。
イノシシのような大きな獲物は死ぬまで30分~1時間かかる。吹き矢の先の槍はその際の武
器である。狩猟には犬も使う。
プナン族はキャンプしながら移動する。バンドといわれる血縁関係の3~7家族で行動をとも
にする。組み合わせは不規則でバンドのメンバーは随時、入れ替わる。住居は小川のほとり
に野営地を設ける。立ち木を利用した高床式のラミンという小屋である。数日の雨露をしのぐ
ためだけの壁もない簡単なものである。衣類は下半身に木の皮で作られた褌(ふんどし)か腰
巻きをつけるだけである。
ダヤク人と比較するとプナン族は色が白く容貌からは日本人や中国人と見間違うくらいであ
る。ジャングルの中を彷徨(ほうこう)しているため日に当たらないためらしい。プナン族の定着
化政策で子供を学校に入れたら運動場で日射病で倒れたという話がある。
自給自足の生活であるが、鉄器と塩は外部か入手せざるをえない。ケニヤ族、カヤン族と不
即不離の関係を保ち外部との接触を保っている。鉄器と塩、あるいは布のために交換のため
樹脂、沈香、燕の巣、砂金を採取する。籐製のマットが唯一の製品である。
プナン族はカリマンタン島の中では最も未開の部族である。このため森林伐採、ダム建設な
ど押し寄せる文明化の波に最も脆い。開発のより進んでいるマレーシアのサラワク州の環境
破壊がプナン族の桃源境を脅かすという形で問題提起されている。
インドネシアもマレーシアもプナン人を定着させようとしている。国民にあまねく文明の恩恵を
施すという国家的善意の発露からである。しかしプナン族を追い出さないとNGOが煩くて森林
伐採やダム建設がやりにくいという不純な動機が潜んでいないとはいえない。

猟犬に襲われたイノシシを、ハンターが山刀(malat)で叩き殺すのを見たことがある。猟犬をつかった狩猟の場合、吹き矢(keleput)の先の鉄製の槍(ujep)で、止めを刺す。そのようにして、獲物に接近した場合、吹き矢の先についている槍で殺す。それに対して、通常、獲物との距離がある場合、吹き矢を吹き、矢を飛ばして、獲物を射る。それが、プナンの標準的な狩猟法である。地上40メートルほどのところにいるサル類を射るのにも、地上のイノシシやシカなどを狙うのにも、吹き矢が使われる。矢(taat)には、一般に、植物毒(ipoh)が塗られる(写真参照)。イノシシ猟では、植物毒とヘビの毒など、5種類の毒(tajem)を混ぜた毒矢が使われる(belat)。カールトン・スティーヴンズ・クーンの『世界の狩猟民』(法政大学出版局)という新刊書を読んでいる。道具としては、棍棒、槍、投槍器、弓矢および毒矢、囮などを用いる狩猟民のさまざまな狩猟法が紹介されているが、残念ながら、プナンが用いるような吹き矢猟については記述がない。ボルネオの先住民のなかで、吹き矢を用いるのは、プナンだけではないだろうか。他の焼畑民たちは、猟犬を用いて、槍で獲物を狩ってきたのではないだろうか。現在、プナン以外の周辺の焼畑民は、銃をもって猟に行くのがふつうである。プナンには、神話で語られるように、最初、吹き矢があって、犬がいなかったと考えられる。いずれにせよ、吹き矢は、ボルネオの狩猟民の特徴的な狩猟具である。吹き矢があれば、猟犬がいなくても、獲物を狩ることができる。いったいどのようにして、プナンは、槍が先に付いた、このユニークな吹き矢という道具を手に入れたのであろうか。



ムルのフタバガキの森にはプナン族と呼ばれる狩猟民が暮らしている。
彼らの武器は、吹き矢。裸足で音もなく近づき、的確に獲物を射抜く。
98年は、プナン族のカトンさんというハンターがCAMP1に同行してくれた。

吹き矢の試し撃ち。
見事にリンゴを打ち抜いた。
プナン人の狩り
吹き矢を使い様々な動物を狩る。

矢には毒が付いていて大きな獲物も倒すことができる。




















- プナン-ボルネオ最期の狩人 -
- Hunters and Gathers・・・PENAN -
彼らの狩猟は吹き矢を使ったものだ。矢の先端には蔓性植物「イポー」から生成された「タジャム」と呼ばれる猛毒が塗られている。ある美しいプナン民族の女性がこの植物に姿を変えたという伝説が今も彼らの間に残っている。
 狩猟は大変な体力と集中力を必要とする。獲物を見つけたら自分の姿を悟られないように近づき狙いを定め矢を放つ。放たれた矢の威力は大変強く、もしも十数メートルの至近距離から吹いたら獲物の体に十数センチの深さまで到達する。また熟練した狩人なら十数メートル離れた場所から小鳥を射落とすこともできるという。とれた獲物は各世帯で均等に分配される。


民族名プナン族
英語名Penan、Punan
人口約1千人(推定)
下分類プナン・ブサン族など、数民族
他国の同族インドネシア中央カリマンタン州:1万2千人(推定)
居住地ボルネオ島サラワク州中央部丘陵地帯のジャングル
言語プナン語?(南東語族(オーストロネシア語族)のインドネシア語派) 

生業採集(果物、サゴヤシ、籐)

漁業(河川魚)
狩猟(吹き矢、ヤリによる:いのしし、鹿、猿)
交易(動物の角、籐製品などと、鉄製品、綿布などとの交換)
主食動物?

工芸籐製品
服装、装飾女性は、腰巻、男性は、ふんどし。
男女とも、腕輪、首輪を身につけている。
住居移動生活のための、簡単な小屋

社会組織20~75人くらいの移動集団の社会
友好狩猟採集の生活を続けながらも、近隣の農耕民族とは、交易を通じ、
長い間、友好関係を築いてきた。
信仰精霊信仰
キリスト教も多いらしい。
闘争森林破壊から、ジャングルを守るために闘争を続けている。