2011-02-18

エジプト数学 / シュヴァレ・ド・リュビッツ

http://www.geocities.jp/red_diamond_eye/yu305.html
岡山遊会 第305回『エジプト数学』レポート
月一回のペースでもう24年にわたり継続されている月例会。
表現活動に携わる人総てにひらかれている概念のバトルロイヤル。
(PEPPER LAND‐Para Market Spectacle‐より)

今回のテーマは『エジプト数学』。チューターは小川あゆみ氏。
古代エジプト人が持っていた高度な知識の一つであるエジプト数学をとりあげ、現代の数学体系と何処が異なるかなどを検証しながら、その魅力を探る内容でした。
以下はそのレポートです。

まず前半。古代エジプト人の数学の活用法や、ルービッチについての講義が行われました。

point1.☆ルービッチについて☆
R・A・シュヴァレ・ド・ルービッチ(1891-1962)。アルザス出身の研究者。
ルービッツ、リュビッツとも表記されますが、彼の研究と著作は当時、学会から異端視されたそうです。それはそれまでのエジプト学、曰く「エジプト人は調和や均衡の法則を知らず、円周率(π)や黄金分割(φ)の存在すら知らない」といった定説を覆したからですが、「シンボル主義」と呼称される彼のピラミッドテキスト(ヒエログリフ)の解釈法は後にグラハム・ハンコック(『神々の指紋』)やコリン・ウィルソン(『アトランティスの遺産』)の著作等にも深い影響を与えていきます。今回のエジプト数学探求も、このルービッチの研究がベースになっている模様でした。
【補足:彼の業績について書かれた著作に、ジョン・アンソニー・ウェスト「天空の蛇」があります。
現在は絶版になっておりますが、図書館などで比較的手軽に読めるテキストとしてお勧めです。
今回のレポートも、この「天空の蛇」からの引用が多いことをお断りしておきます。】

point2.☆エジプト数学の位置づけ☆
古代エジプト人にとって数学とは、哲学・神学・神秘学等と密接に関連しており、それらを統括する巨大な思想システムの部分として機能していたということ。
また、古代エジプトでは言語と数学は単一の理論体系の二つの側面にすぎず、それを踏まえて「数」は「絶対の言語」と呼ぶこともできる、ということ。

次に、エジプト数学における数の意味についての講義が行われました。
実際はかなり膨大なテキストと時間が割かれたのですが、このレポートでは簡単な要約で。

「一」
一は「絶対」あるいは「統一体」を意味する。
これは、人間には永久に把握できないものである。
この統一体が意識を持つと、「極性のあるエネルギー」が生まれる。
それが即ち、「二」である。

「二」
二は「極性」を意味する。
現代数学のように、「一」が「ふたつ」あるものと考えず、「一」の「ふたつの側面」と考えればよいだろう。これが「分割」の概念である(point3を参照)。
この「極性」を用いると、宇宙の「根源的な対立」や、自然の「根源的不一致」を「否定/肯定」「能動/受動」「男性/女性」「イエス/ノー」といった名前で表現できる。

point3.☆「分割」って?☆
エジプト数学は「分割」という考え方が基本となっている。これは受精卵をモデルにするとイメージしやすいかもしれない。受精した卵子を「一」と見立てて、最初の分裂でそれは「二」になるが、全体はあくまで「一」のままである。以後、受精卵が分裂(分割)を繰り返すように「一」から様々な「数」が生まれてくる、という発想である。
【補足:エジプトの有名なテキストにこんな一文がある。
「私は一だ。そして二になり、四になり、八になる。そこで私は再び一になる」】

「三」
ふたつの「極性」間には必ず関係が生まれる。この「関係」が即ち三である。
日常生活に当てはめれば、男女間の「愛」もしくは「欲望」や、ナトリウムと塩素が化学反応を起こす際の「親和力」などが三に相当する。三位一体を用いた神話では、「精霊」がつまり三を意味している。

「四」
四は「物質」を意味する。
三までは云わば形而上学的な概念である。これを説明・観測するために「物質」という第四の原理が必要となる。例えば「地/土」「水」「火」「風/空気」といったいわゆる四元素は、物質の四つの機能的役割やその原理を説明するために象徴(シンボル)として用いられた。

「五」
五は「創造」を意味する。
上記四までで説明された「物質」が今度は、「いかにして」存在するに至ったかの説明である。
ピタゴラス学派にとって「五」は「愛」を意味するが、これは「生命の創造=男女の結合」とも読める。
また、創造という意味で「五」が理解されていたが故に、五線星形や五角形は神秘的な組織等で神聖なシンボルとされてきている。

「六」
六は「時間」と「空間」を意味する。
これは五項目で説明できた「創造」が、現実に状況として起こるために必要な枠組みである。
エジプトでは、立方体(正六面体)は「空間の現実化」のシンボルとして利用された。

「七」
七は「生成」もしくは「成長」を意味する。
六までで、「創造」に必要な「空間」も「時間」も説明できた。今度はその「時間」の矢、つまり時間の「向き」の説明である。そして、調和音階が七音に分節できるように、古代エジプト人は、現象は七段階で完結する傾向があると考えた。

「八」
八は、「七」までで表現された現象が複雑に入り組んだ、我々の「世界」を意味する。

「九」
古代エジプトでは、九という数に大きな重要性を与えている。
「九」はきわめて複雑で、正確に言葉で表現することは事実上不可能。


そして後半は、この「九」に関連のあるシンボル「テトラクティス」や「ペンタクティス」そして「エニアグラム」の解説をはじめ、エジプトの計算方法や三つの暦の意味の講義が行われました。
この辺りの要約は私の手に余るので、その中でも興味深かった事項をポイント別に。

point4.☆エジプト文明の謎☆
エジプト文明における様々な分野の知識(科学、芸術や建築の手法、ヒエログリフの体系など)は、
最初の時点から完成していたようである。いずれも「発展」を匂わせる形跡がまったくない。
これは主流派のエジプト学者も認めるところであるが、高度な文明がいきなり成熟しきった状態で現れることなど、はたしてあるだろうか?
この謎に対する答えとして、「遺産」がある。つまりエジプト文明は既に成熟していた文明を受け継いだのだと。だがそれは即ち、「アトランティス」とも称される超古代の文明の存在を認めることになるので、多くの学者はこの問題に関して慎重な態度を取らざるを得なくなっている。

point5.☆エジプト数学とコンピュータ☆
エジプト数学の計算方法は倍数計算が基本となっている。
この構造に近いのは、実はコンピュータなどで用いられる計算方法である。
ルービッチは著書の中で、「世界の歴史の上で最も古い計算法は、最も先進的である」と指摘した数学者の説を引用して、エジプト数学の合理性について語っている。

point6.☆古代エジプトの価値観とは☆
例えば、エジプト文明に於ける建造物の素材選びやヒエログリフの表記法は、現代の我々の価値観に照らし合わせてみると、無駄が多く、煩雑で厄介に見える。だがよく考えてみて欲しい。
私たちは「容易になること」が「進歩」だと、すっかり思い込んでいる。
数学でも簡単なほうがよく、アルファベットにしても、誰もが簡単に学べて意思を伝えられるほうが、
習得に何年もかかるヒエログリフなどよりも好ましいと思っている。だがそれは疑問の多い価値判断だ。

現在、世界中の人々がプロスポーツに熱狂するのは、優れたものやひとつのことに打ち込むことへのあこがれを反映しているのだろう。プロの選手などがいま経験している困難や挑戦は、以前は私たちの日常生活に組み込まれていたのだが、技術の発達によって一掃されてしまった。
エジプト文明は容易な手段や表現方法を迂回し、ひたすら面倒な方法に固執しているようにも見える。しかし、これはある目的を達成するために意図的にとられた姿勢だ。
つまりエジプト文明は、日常的に哲学的思索や修行、芸術による至高体験が行えるようなシステムを創り出していたのだ。実証こそできないが、少なくともそう考えることは、現代を生きる私たちにとって何らかの指針となるに違いない。


最後に感想を。私自身は現代人なので、古代エジプト人が数学をどのように捉え、実践してきたかを完全に理解することなど勿論できなかったのですが、現代文明が切り捨ててしまったその一端に触れるだけでも、なにか居住まいを正されるような、ちょっと厳粛な気持ちにさせられたのでした。