2011-01-15

ハイドン/十字架上のキリストの最後の7つの言葉

ハイドン/十字架上のキリストの最後の7つの言葉  インマゼール(fp)

 ・ハイドン/十字架上のキリストの最後の7つの言葉
  ジョス・ファン・インマゼール(fp) (Channel Classics)
→詳細はコチラ(HMV/Tower/Amazon)

インマゼールの弾くハイドンの「十字架上のキリストの最後の7つの言葉」のCDを、先日ふと立ち寄ったショップで見つけました。1994年にChannelClassicsに録音したもので、最近、都内のショップではほとんど見たことがなかったので、狂喜乱舞して購入しました。この曲のピアノ版に関しては、Brilliantから出ているオールト盤を聴いてとても楽しみましたから、私の大好きなインマゼールの演奏が聴けるとあって期待に胸ふくらませて聴きました。

楽器のせいもあるのでしょうが、オールトの演奏が一貫して穏やかであたたかい響きを大切にしながら演奏していたのに比べ、インマゼールの演奏は、より音色の変化に富んだものであることにまず耳を奪われます。特にモデレートペダルを使った弱音の扱いは舌を巻くほど巧みで、フォルテピアノという楽器の特性を十全に生かしきった演奏になっているあたりはさすがです。例えば、5番目のソナタ「成し遂げられた」では、静謐な幸福感に溢れた感情がじわじわと伝わってくるようで、この曲がもともと、あくまで静かな祈りの儀式に用いられる音楽として書かれたことを思い起こさせてくれます。そして、音楽の持つ微妙な味わいや陰影がはっきりと耳で感じ取れるインマゼールの演奏からは、「受難」さえも乗り越えることのできた大きな慈愛に満ちたイエス・キリストその人の静かな言葉が聴き取れるような錯覚さえ覚えます。そのあたりは、鄙びた教会の壁画で受難の場面が描かれた宗教画を見るような佇まいをたたえたオールト盤とはまったく味わいが異なっていて、この曲のまた違う魅力を垣間見ることができるような気がします。最後の「嵐」での凄まじい打鍵もとてもスリリングで聴きもので、1時間近い大曲をまったく退屈せずに楽しむことができました。期待以上に素晴らしい演奏だと私は思います。

来月のインマゼールの東京公演での「十字架」、聴きに行けるかどうか微妙な状況なので、せめてこのCDを聴けただけでも良しとしようかと思っています。勿論、このCDの録音から15年の年月を経た2009年のインマゼールが、どんな演奏をするかとても興味があるのですが・・・。